xharukoの日記

妊娠、出産、育児の中で思った事をつれづれ書きます

男の名は公表されない

※2019年1月22日に報道された東京都豊島区の遺棄事件の感想として書いたところ、まさか1月24日に埼玉県新座市のコンビニでも遺棄事件が発生するとは思いもよりませんでした。歩いてコンビニに来て数十分で分娩完了とか壮絶過ぎる。



自分があれだけ沢山の産院スタッフに支えられて行った出産を、どうやってたった一人で乗りきったのだろう。

新生児遺棄のニュースを見るたびに、私は自身の出産を思い出します。赤子を遺棄した母親は社会的に責められますが、あの長時間におよぶ作業を一人で乗り切った事に限って言えば、私はいつも賞賛の念を覚えます。
苦労した人ほど偉いと感じる日本人的感覚なのかも知れませんが、たった一人で自宅出産した女性の事を私は、自分よりも女としてのランクが高いように感じるのです。
勿論その後、遺体を押し入れに入れておくなどは噴飯ものですが。

陣痛の始まりから子宮口全開までには個人差はあるものの、普通は何時間もかかります。出産体験記を読んで知りましたが、長い人だと3日ほどかかる事もあるようです。それだけ長い間痛み続けているにも関わらず、誰にも助けを呼ばない勇気。実は陣痛ではなく、何か重大な病気で痛いのだとは思わなかったのだろうか。
自宅単独出産をした女性が家族と同居だった場合、よくもそれだけ長時間に渡ってトイレや風呂場に籠れたものだと家族の無関心さにも驚かされます。自室でだった場合はカーペットに血液などは染み込まなかったのでしょうか。

一般的に出産体験記では、いきみ逃しに苦労した話を聞きます。男性など出産未体験の方に分かりやすく言えば大便を出したい感覚を無理矢理抑える事を「いきみ逃し」と言います。子宮口が全開にならないと赤子の頭が通れない為、いきみたい感覚が来たからと言っても無闇にいきんではならないのです。
どうしても出したい衝動を抑えられない場合には肛門付近にテニスボールを外部から力一杯押し当てて貰うのだそうです。

私がいきんでも良いタイミングはモニターを見た助産師さんから指示されましたが、そうした手助けがない単独出産の人は子宮口が全開になる前からいきみ始めてしまったのでしょうか。だとしたら最後まで持つなんて、必死だったとはいえ凄い体力だなと感心します。
ちなみに誘発剤投与による計画出産で陣痛開始から分娩完了まで6時間程度で終わった私は、それでも腹筋を中心に腕や背筋、ふとももやふくらはぎなど全身がしばらく筋肉痛になりました。分娩が何時間も続いた方はもっと辛い事になっていただろうなと思います。

緊急帝王切開や吸引、鉗子分娩になる人、医師が膝を母体のお腹に乗せて体重をかけ、物理的に赤ちゃんを出す手助けをして貰う人もいるというのに、そうした事態にもならない幸運さ。単独出産の人にとっては赤子が生きていなくても良いからこそなのかも知れませんが、手助けを必要としないまま出産しているその幸運には、あやかりたい人もいるのではないでしょうか。

赤子が産道を通り抜ける時に皮膚が伸びきれなかった場合は母体の方が負け、出口が裂けてしまいます。産院で出産しても対処が間に合わず肛門近くまで裂ける人もいるというのに、会陰(えいん)は無事だったのでしょうか。

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刃物で最小限に切る事で傷も少なく、治りも早くする為に医師が行う処置が会陰切開です。人工的に切開せず、自然に裂けた場合の傷口は治りも遅いと聞きます。
なお私は医師による会陰切開、縫合を受けましたが、切った会陰には数ヶ月も痛みが残りました。産後何年経っても行為の度に会陰が痛いような気がして、裂けるのではないかとの恐怖がよぎります。

赤子を出したら出産は終わりではなく、その後で胎盤も出さないといけません。助産師さんに言われなければ私は胎盤もこのタイミングで出すものなのだとは分かりませんでした。てっきり胎盤とは自分の子宮の付属品だと思っていましたが、妊娠の度に新たに出来るものなので、産後の母体には残っていても不要、むしろ出しておかないと危険だとは思いもよりませんでした。
あとはその大きさにも驚きました。第二子出産の時に希望して私の胎盤を見せて貰いましたが、両の手のひらで抱える程の大きさで、見た目は豚のレバーの塊のようでした(人間の肝臓は生で見た事が無いので比較できない)。あの物体をトイレに流したとしたら確実に詰まりそうですし、生ゴミとしてゴミ集積所に出すにはゴミ袋を二重にした上で何かカモフラージュ工作が必要ではないかと思います。

よく「へその緒がついたままの赤子」とニュースで耳にしますが、遺棄された赤子にその先の胎盤は一緒についているのでしょうか。それともへその緒は切るもの、というのは常識かと思うので、単独出産でもへその緒は切っているのでしょうか。
へその緒で母子は繋がっている。ならばどこまでが「自分」の感覚なのかも分からない中で、へその緒を切ったら実は自分の方に痛みが来るのではなどとは思わなかったのでしょうか。


産後の出血は悪露(おろ)と言い、生理の出血よりも多くの血が1ヶ月近くに渡って出てきます。産後数時間の悪露は普通の生理用ナプキンでは吸収しきれないくらいの量が溢れ出るなんて初産では知るよしもないのに、とめどなく溢れ出る悪露をどのように対処したのでしょうか。
ドラマとはいえ「透明なゆりかご」(NHK)第二話の高校生の自宅単独出産の話では出産直後に赤子を紙袋に入れて女子高校生が自転車に乗っていましたが、このシーンの初見時は「悪露は?悪露はどうやって対処してんの!?」と心配でなりませんでした。
また私自身は股間の痛みで産後3日程度はひょこひょこペンギン歩きにならざるをえなかったのに、ドラマでは産後直後の女子高校生が自転車に乗っていたのにも驚きました。出産を隠す為に必死とは言え、物理的に自転車に乗れるのかと…

ついでに「透明なゆりかご」第二話の件で言えば、医師は何も事前情報がなくても女子高生の体調不良を出産した事が原因かも知れないと見透せるものなのだと感心しました。娘の出産に気付かなかった母親が体調不良の娘を病院へ連れて行ったのならまずは内科あたりかと思うので。
…否、聴診器を胸に当てる時に医師に腹を見られるか。産後数日ではお腹の大きさもまだ残っているし、極秘妊娠なら妊娠線ケアもそうそうしないだろうからお腹の皮膚が肉割れしていて妊娠を気付かれた可能性もあるのかも知れません。診察台で盲腸かを確認するために患者に横にならせて腹部を押したなら、まだ収縮しきっていないコリコリとした子宮を確認できたかも知れません。乳房も張って母乳が滲み出していたか、尿検査のホルモン値で出産が発覚した可能性も考えられます。

妊娠はとにかく母体に大きな跡を残します。聞いたところによると全治1ヶ月の怪我と同等だとか。望んだ妊娠でも出産には覚悟が必要なのに、女であるだけで避妊の失敗でここまで結果を押し付けられるなんて、本当に不公平だと思います。

出産後、出てきた赤子を見て情が湧かなかったのか、と言われれば、極秘自宅単独出産の人にとっては、ただでさえ無かった事にしたい存在なのだから、あんな血や胎脂まみれの物体を可愛いとは思えなかっただろうな、というのは理解できます。
性神話というのはとにかく幻想です。客観的に見て、産後すぐの赤ん坊はあまり可愛いものでは無い事は体験として理解しました。望んだ出産でようやく我が子に対面した筈の私でさえも、自分史上最高の達成感を味わいながらベージュ色の胎脂で被われドロドロべちょべちょしている赤ん坊を見た時は、見た目エイリアンだなと思いました。綺麗に汚れを落とされて初めて少し可愛くなり、何日か経って手足がふっくらしてきて赤ちゃんっぽくなってからでないと、客観的に可愛いとは思えません。妊娠を誰にも打ち明けず存在を無くしたくての単独出産をした人にとっては、なおのこと可愛くは無いのでしょう。


思い付くだけでもこれだけ大変な単独出産にも関わらず、それで母体が亡くなったとはニュースで聞かないのも歯がゆく感じます。報道されていないだけかも知れませんが、産院で万全の対策をして貰いながらの出産でも出血多量などで母体死亡が現代でもあると言うのに、単独出産に挑み死亡とは寡聞にして知りません。私なんて万一に備え、第二子の出産前には遺影に使えそうな写真を撮影しておいたくらい、出産は何が起きてもおかしくない、命がけの仕事なのに。

小野不由美氏の「十二国記」シリーズのように赤ちゃんは夫婦が望んではじめてやってくる存在であれば良いのに(しかも作中では赤ちゃんは「木に実るもの」なので女性に負担も無い)、単独出産で新生児遺棄のニュースを見る度に、どうしてか望まない人ばかりに赤ちゃんは安産でやってきているような印象があります。
他の動物のように発情期が決まっていれば良いのに、人間はいつでも発情期だというのも不思議です。

NHK「透明なゆりかご」第六話で堕胎手術を受ける前の女性が、以前にも堕胎手術を受けていたと知った主人公は激昂します。
「あなた妊娠ってどういう事か分かってますか? 子どもの命が生まれてるんですよ? 産めないのに作って…無責任すぎます」
と責める主人公に女性が言った言葉、
「それ男にも言ってくれよ」

赤ちゃんは女だけでは作れないものなのに、新生児遺棄で実名で報道され逮捕される女性をニュースで見る度に、どうして女ばかりがこうも責任をおわされるのか、歯がゆく思うのです。