xharukoの日記

妊娠、出産、育児の中で思った事をつれづれ書きます

救われて欲しい人は救いを求める先を知らない

テレビ東京のドラマ「フルーツ宅配便」第五話を観ていて感じたのは、子どもが自身が苦境の時に、親以外の人に助けを求める方法を知らない事をどうにかしなければならないのではないか、という焦燥でした。

「フルーツ宅配便」はデリヘル(デリバリーヘルス)を舞台にしたドラマです。デリヘルは依頼者の元に女性を派遣する形式の性風俗で、主人公はそのデリヘルの店長見習いとして働く事になった男性です。主人公がそうした仕事に就いた事は旧友たちには隠しています。
第一話の寝ている時に夫から熱したアイロンを顔に押し当てられるDVを受けた女性の話も胸に迫りましたが、第五話では主人公と中学の頃に仲が良かった、今では飲み友達の女性の過去が明らかになり、その内容も壮絶でした。

主人公である咲田の中学時代の同級生、本橋えみはクラスの人気者で勉強もできスポーツもできて、いつも明るい女の子だったが、家庭生活は主人公らが抱くイメージとはかけ離れたものだった。
えみは両親が離婚した為、母親に引き取られて生活していた。ある日、母親が男性を連れ帰ってくる。新しい父親だと急に言われ、しかも母から赤ちゃんを身籠っていると聞かされるえみ。
新しい父親は言う。
「えみちゃん、子どもが生まれたらうるさくて勉強できないだろ。だからえみちゃんの為にアパートを借りてあげる」

母親から自分の生活費は自分で稼ぐよう言われ、中学生であるえみは困惑する。
稼ぐなんて無理だと言うと男は言った。
「大丈夫、お父さんが良い仕事を見つけてきたから」

新しい父親が中学生のえみに紹介した「仕事」は援助交際だった。新しい父は援助交際の元締めと知り合いだったらしい。初体験の相手は知らないおじさんだったと、えみは主人公に告白する。
その「仕事」が嫌になり母のいる家の玄関の扉を必死に叩くが、母は赤ちゃんが起きるからと、えみを冷たくあしらい扉を閉める。
「あたし、もうあんな事したくない!
 お母さんと一緒に暮らしたい!
 お母さんからもあの人に言って!」
えみが扉を叩き続けていると母親が玄関から外に出てきた。しかしそれは新しい父親を「あの人」と呼んだ事を咎める為で、平手打ちをされた上で「二度と現れるな」と、えみは母親に拒絶されるのだった。

橋の欄干に足をかけていたえみを目撃した主人公らは「自殺なんてやめろ」と駆けつけるが、
「あたし、別に死のうとした訳じゃないんだけど」
と学校の人気者らしい勝ち気な態度でえみは誤魔化し、そこから主人公らとの友人関係が始まる。
主人公から見て、えみはずっとクラスの人気者だった。しかし、えみの「仕事」は続いていた。学校で明るく振る舞っていたのは嘘だったのだ。えみは女の身体をつかって金を稼ぎ続け、高校の学費も自力で工面したのだという。
中学生の頃からそうしてきた為、普通の生活に戻れないえみは現在も風俗の仕事(主人公が勤める店とは異なる店でのデリヘル)をしている、という内容でした。

母親の再婚相手から娘が性的虐待を受ける話はしばしばありますが、援助交際を強要する事もまた虐待です。しかも援助交際で生活費を稼がなくては、えみの生活費は無かったのですからネグレクトも加わります。
母親は今の夫と、今夫との間に生まれたばかりの赤ちゃんとの生活の方が大事で、前夫との子であるえみを守るどころか疎ましく思っているようでした。えみの「仕事」を母親が知っていたのかはドラマからは分かりませんでしたが、おそらく知っていたのではないかと推察します。元夫との子であるえみには関心が向かなくなっていたのか、今夫に歯向かい、捨てられるのを恐れて黙認していたのではないかと思います。
夫や妻が前の配偶者との子どもを連れている上で再婚してできた家族の事をステップファミリーと呼ぶのだと、割りと最近になって私は知りました。人口動態調査によると現在の日本では4組中1組は再婚なのだそうです。ステップファミリーの数は増えましたが、しかし初婚同士でできた家族とは成り立ちが異なり抱える問題も多様であるにも関わらず、ステップファミリーへのサポートは日本ではまだまだ十分では無いそうです。「新しい家族」の邪魔者とされる子どもも少なくなく、物理的には居場所はあっても、精神的な居場所を無くす子どもいるようです。

NHKドラマ「ゾンビが来たから人生見つめ直した件」第六話でも、街中がゾンビだらけになってしまった中で生き延びたメンバーの一人、松田夢という少女は両親が離婚し母親に引き取られていましたが、ゾンビから逃れるサバイバル生活中、実父とその恋人の前で新しい父親から疎まれている事を告白します。
新しい父親が夢の事を「邪魔だからどこかに行って欲しい」と母に言っている所を聞いてしまった夢は、実父と一緒にいられるゾンビだらけの世界でのサバイバル生活がこのまま続く事を望んでいます。父は自分だけの父であり、父の恋人は自分に対して敵意が無いどころか自分を守ってくれ、そこには夢の居場所が明確にあるからです。
なお、「夢は邪魔だからどこかに行って欲しい」と継父が実母に言った時の実母の答えは「ごめんね」だったそうです。

ライオンの群れのボス(オス)が交代する時にまず行うのは、前のオスとの子を殺す事だそうです。別のオスとの子を疎ましく思うのは生物としての本能なのかも知れません。
ニュースで報道される児童虐待事件の加害者は母親の再婚による新しい父から、あるいは恋人からの暴行が多いような印象ですが、しかし、「主たる虐待者の推移」という表によると平成26年度では主たる虐待者は実母52.4%、実父34.5%、実父以外の父6.3%だったそうです。

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児童虐待の状況等より



何故こうもニュースの印象とは異なる結果が出るのでしょうか。「児童相談所での虐待相談の内容別件数の推移」によると平成26年度は心理的虐待43.6%、身体的虐待29.4%、ネグレクト25.2%との事。
ニュースで報道されるのは死亡事件か重大な外傷を負った傷害事件の時だけで、心理的虐待までは報道されないからなのかも知れません。
子どもの目の前での夫婦喧嘩も虐待にカウントされるようになったと聞きましたので、それで「心理的虐待」の割合が高いのか、私の児童虐待のイメージとは異なり、モラハラのような精神的に追い詰める虐待の方が暴力やネグレクトより実はとても多いようです。
児童相談所が把握しているだけでも膨大な件数ですが、きっとこの社会には掬いきれていない虐待は数多くあるのだと思います。虐待の重度、軽度にかかわらず、どれだけの子どもが辛い状況におかれているのかははかり知れません。

「フルーツ宅配便」の本橋えみは家を出され、生活費の為に援助交際を強要されました。「ゾンビが来たから人生見つめ直した件」の松田夢は虐待らしい虐待を受けている訳ではありませんが、家庭では息苦しい状態に置かれています。
本橋えみのような子が救われる道を用意する事は急務ですが、松田夢のような子が安心して気持ちを吐露できる場所ももちろん必要だと思います。しかし、子ども自身はセーフティネットの存在を知りません。

どこへ助けを求めれば中学生が親に強要された援助交際をしなくても良い生活を送れるのか、子ども自身はそれを知りません。私が児童相談所の存在を知ったのも大人になってからでした。しかし調べなければ電話番号も所在地も未だに知りません。
子どもの中でも自由に検索の出来るスマホを与えられている子どもしか学校以外の相談先を見つける事など出来ず、しかしスマホを持つ事が許されている子どもは虐待とは縁遠い生活を送っているのではないかと思います。
ならばスマホを持てない、パソコンを使えない、電話も使えない子どもが社会に窮状を訴えるには、日中の子どもと接する機会の多い教師を通してしかないと思うのですが、教師も多忙で子どもの家庭状況にまでは対応できない場合も多いと聞きます。何より子ども自身が教師に知られたくないと虐待の事実を隠してしまう事もあると思います。
子どもが誰に話せば親からの報復を受けずに問題が解決されるのか。私の時代なら担任教師以外では養護教諭がそうした相談にのってくれていたような気がしますが、今はスクールカウンセラーという役職もあります。スクールカウンセラーが常駐し、子どもたちが気軽に休み時間に部屋に遊びに行けるような関係を築ければ、松田夢のような子も次第に胸襟を開いてくれるのではないかと期待します。
本橋えみのような子には保護を、松田夢のような子にはまずはせめて、心置きなく気持ちを吐き出せる場所や仲間が必要なのではないでしょうか。

NHKドラマ「トクサツガガガ」の主人公は子どもの頃に、大好きな特撮ものの雑誌を目の前で母親に焼かれました。自分の宝物が焼かれた訳ではない主人公の兄すらもその光景がトラウマになっているのならば、主人公の心の傷はいかばかりか。
児童虐待は実母から、そして心理的な虐待が最も多いそうです。母親が子どもの教育の為に良かれと思ってやった行為も、第三者から見れば虐待としか思えない事もあるかも知れません。
もし我が子が私から虐待を受けていると感じた時に、我が子が救われるような機能が社会にある事を望みます。外部から指摘をされなければきっと、私は私の言動の落ち度に気が付けない可能性がある故に。



千葉県野田市の10歳の少女の死は大人として本当に悔しい。どのような思いでアンケートを記入したのかと思うと、助けられなかった大人の一人として悔しくてたまりません。