xharukoの日記

妊娠、出産、育児の中で思った事をつれづれ書きます

夫婦でも同意を得る

「この世界の片隅で」に登場した傘問答をご存知でしょうか。
主人公の結婚が決まった際に、祖母が主人公にこのように説明します。
(先日NHKで放送された映画版を元に書いています)

「ほんでのう、むこうの家で祝言挙げるじゃろ」

「その晩に婿さんが『傘を一本持ってきたか』言うてじゃ」

「ほしたら『新なのを一本持ってきました』言うんで」

「ほいで『さしてもええかいの』言われたら『どうぞ』言う。ええか?」

初夜の作法を説くこの場面を見て、女性は夫の所有物で女中のような家事労働者で産む機械扱いだった時代においても、例え形式的なものだとしても、性行為の前には夫は妻からの同意を得ていたのだなと私は妙に感動してしまいました。

なお「にいなの傘」と検索したところ、ヤフー知恵袋などで意味を問う内容の投稿を幾つか見つけました。

新なの、とは新品の
傘をさす、とは挿す、挿入の意味
傘は普段は閉じていて、使用する時に開くもの、そこから女性の股を開くの暗喩
だと私は解釈したので、ここではそのようなつもりで書いています。

考えてみればかつては見合い結婚が多く、自分の結婚相手ときちんと会ったのは結婚式の当日、という事もあったというような話も聞いた事がある程です。ならば結婚した相手とはいえ初対面の男女が事を始めるのには何かしらのきっかけが必要であり、この傘問答はその為の儀式だったのでしょう。
結婚したならば夫婦は子どもを作るのが当然の時代であるにも関わらず、おそらく最初だけとはいえ「しても良いか?」と男性が自分の妻となった女性に言葉で確認をとるというのは、とても素敵な事だと思いました。

傘問答も結局はただの形式で、妻の拒否権はなかったのだとしても、「行為をしても良いか?」との確認を男性は行います。しかし、現代はその場の雰囲気に任せて、その辺りの事がうやむやになっていたりはしないでしょうか。
受け身である事を多く望まれる女性から自発的に「嫌だ」と口にする事はかなりのハードルです。相手からの要求を拒否すれば嫌われてしまうおそれがあるので難しいとは思いますが、それでも自分からいきなり「嫌だ」と言うよりも、相手から「しても良いか?」と水を向けられてからであるならば、女性からの言い出し難さも多少は軽減されるように感じます。

初夜における問答での「傘」は一例だったそうで、他には「柿」を用いた地域もあったようです。インターネットで検索したところ、柿の木問答の方が広く知られているようです。

夫「あんたの家に柿の木はあるか」
妻「はい、あります」
夫「柿は沢山実るか」
妻「はい、実ります」
夫「俺が登ってちぎっても良いか?」
妻「はい、どうぞ」

柿はたわわに実るので子宝を願い
登る、は男性が女性の上に乗る
ちぎる、は契るで男女が肉体的な関係をもつ事なのでしょう。
言い回しには様々なものがあるようですが、こちらでも男性は女性に「しても良いか?」と確認をとっています。

性的な話を口にする事ははばかられるものですが、隠語だからこそ普通の声量で確認が行えるのだと思います。また傘問答も柿の木問答も比喩が用いられているので、とんちのきいた面白さも感じられます。平安の時代より和歌は掛詞などで技巧をこらしてきました。言わぬが花を良しとする文化において、隠語は手段として有りだと私は思います。
そして、大切な事だからこそ隠語を駆使して「当たり前」の事としようとした方の記事を思い出しました。


ユーチューバー夫婦、アポロを避妊具入れに推奨 「失礼すぎる」と批判殺到
https://netallica.yahoo.co.jp/news/20190412-25229450-sirabee

小中学生を中心に人気を集めるユーチューバーグループ「東海オンエア」のメンバーでもある「しばゆー」と、その妻「あやなん」が開設しているチャンネル「しばなんチャンネル」。

(中略)

多くの批判を集めているのは同チャンネルが6日に「【JKに捧ぐ】頭にチュッパチャプス刺す前に“コレ”を流行らせて下さい」とのタイトルで投稿した動画。

女子高校生の間で髪の毛にチュッパチャップスを刺すことが流行していることを挙げ、あやなんは「私からも発信すればなにかを流行らせることができるんじゃないか」と提案したのが、明治が製造販売している粒チョコレート「アポロ」の空箱を避妊具ケースにする、というものだ。

(中略)

さらに、あやなんは自身のインスタで「恥ずかしがらずに持ち歩こう身体を大切に」のコメントとともに、アポロの箱を手にした写真も投稿した。

視聴回数は69万回を超えているが、動画やインスタを見た人らからは「アポロを隠語にって…失礼すぎる」「アポロ持ってるだけで性的同意が取れていると勘違いされたら最悪」など批判するコメントが殺到した。

日本では避妊具と言えば男性用コンドームで、避妊は男性主体のものだと考えられています。余談ですが現在日本でアフターピルが気軽に入手できないのは、これ幸いと避妊を行わない男性が増える懸念があるからなのかも知れません。
行為をした後の結果は女性の方に重くのしかかります。だからこそ万が一の事を考えて、女性も男性用のコンドームを持ち歩く事が推奨されています。
なお、わざわざコンドームを「男性用の」と書いたのは、実は女性用コンドームもあるからです。産後に産院で受けた家族計画の講義で女性用コンドームの存在を知りましたが、私は女性用のものもある事をその時に初めて知りました。しかしドラッグストアの売場などを見ても販売されている事は確認できませんでした。だからこそ、入手しやすい男性用のコンドームを女性も持ち歩くように、という事のようです。

ところがコンドームは財布や化粧ポーチに入れていると摩擦などで包装が破れやすいのだそうで、劣化を防ぐ為に製造メーカーもアルミ缶に入れているものもあるそうです。
素で持ち歩く事がはばかられ、化粧ポーチでも破れてしまう事から、動画の発信者は「若い女性が持ち歩いていて恥ずかしくない容器」としてアポロチョコレートを選んだのでしょう。
容器にとしたのが有名なお菓子だった事で動画は炎上してしまったようですが、考え方自体は素晴らしい提案だと私は思いました。お土産屋さんに並んでいるようなタブレット菓子の粒を入れるアルミ容器にコンドームのサイズが合えば丁度良いのではないでしょうか。

相模ゴム工業株式会社のサイトによると、世界各国にコンドームの隠語があるようです。フランスでは「イギリスのレインコート」、ポルトガルでは「ビーナスのシャツ」、香港では「防弾チョッキ」、アイルランドでは「ジョニー」。
「ジョニー」は普通に男性の名前のように思えるのでジョニーという名の方にとっては複雑だろうとは思いますが、そもそも「コンドーム」自体がどうやら人名であったと相模ゴム工業株式会社のサイトにありました。考案者の名前がコンドームで、後に人間の方が改名(改姓)したようです。日本では「あれ」という指し言葉や「ゴム」という言い方が一般的なようですが、もっと一段階ほど遠回しな言葉の方が情緒が出るように思います。「アポロ」は無理だとしても、もっとコンドームとは繋がらない、かつ10代になったらピンとくるような名称が出来れば良いなと思います。男女の営みの有名な歌などがあれば、そのタイトルが使えるのではないでしょうか。「GOLDFINGER´99」を縮めるだとか。
しかし個人的にはアポロチョコレートは円錐形の尖端がピンクで下がチョコ色、普通のチョコがピンクのチョコレートを被っているように見えるので「アポロ」は男性用コンドームの隠語として絶妙だと思っています。ポッキーの箱では大きすぎますし。

傘問答に話を戻しますが、「この世界の片隅で」で主人公の夫は初夜で本当に

「傘は持ってきとるかいの?」

と主人公に質問します。言われた主人公は教わった通りに
「はい、新なのを一本…」
と答えますが、夫は
「ちょい貸してくれ」
と物理的に主人公の傘を借り、窓から軒下に吊るしていた干し柿を取りました。
問答の作法を教わったものの、意味が分かっていなかったのか、分かっていながら敢えて別の行動をして虚をつかせつつ、結婚式で料理を口に出来なかった自分と新妻の空腹を落ち着かせる為に貴重な甘味を食べたのかは定かではありませんが、このやり取りで夫婦の距離は一気に縮みました。

現在では夫婦間でも同意のない性行為はドメスティックバイオレンスと定められています。直接的な言葉で確認をする事は私でもいささか抵抗がありますが、傘や柿の木に例えて問う事はユーモアや情緒も感じられ、かつ普通の声の大きさで肝心の意思の疎通も行えるので、「この世界の片隅で」のヒットに乗じて、こうした文化がまた復活したら良いのではないかと思いました。



女性が新なの状態(処女)以外のパターンで使える、文学的な良い言い回しがあると良いのですが。