xharukoの日記

妊娠、出産、育児の中で思った事をつれづれ書きます

そのヒソヒソ声に意味はあるか

我が家では上の子の蒙古斑は、私が下の子を出産し、そのお世話にかまけていた間にいつ消えたのか分からないまま見えなくなってしまいましたが、2才の下の子にはまだまだしっかりとその存在がお尻に出ています。また、ぼんやりとフトモモや肩や背中にも青い蒙古斑が見てとれます。
上の子の時にはお尻にしか蒙古斑は出ていなかったので、下の子の出産当初には背中の広範囲に広がるそれも蒙古斑なのだと知り驚きました。更に上の子が幼稚園に入園するようになると、足首に濃い蒙古斑のある子にも出会いました。
色々な所に色々な濃さで出るものなのだと一つ学習した次第ですが、異所性蒙古斑と呼ばれるそれは、時としてあらぬ誤解を周囲に与えてしまうようです。


意外な場所に出る「蒙古斑」を見た人が声高に偏見の言葉 虐待の痣ではない!
https://netallica.yahoo.co.jp/news/20190902-74376701-otakuma

「電車で見知らぬおばちゃん達に『あんな小さい子に虐待して…』『だから若い子は…』って聞こえるように言われた。子育ての経験あるなら蒙古斑と痣の違いくらいわかるでしょうに。お尻以外にも蒙古斑って出るのよ。それに若いのは関係なくないですか?酷い事言われ慣れてたけど流石にイラっとした…」と、心無い言葉を浴びせられたのはネットユーザーの悠里さん。わが子の蒙古斑の写真とともにツイッターに投稿しています。

アメリカかどこかで、黄色人種には蒙古斑が出る事を知らない人たちから、子どものお尻が青いせいで虐待を疑われ施設に保護されてしまった赤ちゃんがいたという話を読んだ事があります。
蒙古斑は英語でMongolian Spot、またはMongolian Blue Spotと言い、黄色人種アメリカ先住民、ヒスパニック系の人々の赤ちゃんに見られる身体的特徴のひとつです。私は蒙古斑は赤ちゃんには「ある」事が普通と思っていましたが、白人には滅多に出ない事は後になってから知り、逆に驚きました(「黄色人種モンゴロイド」にしか出ないからこそ「蒙古=モンゴル」と表記するのだと合点がいきました)。

おそらく日本人の多くの年配女性は蒙古斑の存在は知っているだろうと思います。しかし、投稿者が電車内で遭遇した年配の女性たちは異所性蒙古斑の事までは知らなかったのでしょう。私も上の子しか育てていなければ異所性蒙古斑の事など知る機会は無かったと思います。
現役子育て世代は、年配の女性たちを「子育ての先輩」と思っている事と思います。だからこそ、自分たちが経験している事は先輩方は既に経験している筈、という甘えが生じます。
投稿者には「子育て経験者ならば異所性蒙古斑くらい知っているだろう」という甘えがあった為に、理解して貰えなかった事がショックだったのだと思います。
また投稿者はお子さんの足首にある濃い痣を他者の目からどう思われているのだろうかといつも気にしていたのだろうなという事が読み取れ、上記の記事を読んで私も投稿者と同じく悲しい気持ちになってしまいました。そして年配女性たちが異所性蒙古斑を知らなかったにせよ、その反応の仕方に憤りを感じました。

記事で紹介された子の異所性蒙古斑は足首にあります。それを見た年配女性たちはあろう事か虐待による痣だと勘違いし、投稿者に聞こえるように『あんな小さい子に虐待して…』『だから若い子は…』と口にしたとの事。
異所性蒙古斑を知らなければ、確かにそれは遠目からは痣に見えるでしょう。しかし、虐待による痣だと勘違いしたのならば、その反応の仕方は何なのでしょうか。
もしかしたら「私たちはあなたの虐待に気付いているわよ(だから虐待なんてお止めなさい)」という牽制、あるいは善意ある脅しだったのかも知れません。

そもそも本当に虐待による痣であったならば、普通の虐待者ならば隠そうとするのではないかと思います。
また本当に虐待であったとするならば、遠くからひそひそ自分たちだけで会話するだけでは何の問題も解決しない事は明らかです。

異所性蒙古斑を虐待による痣だと思ったのならば、おばちゃんパワーを発揮して
「赤ちゃんのこの痣はどうしたの?」
と投稿者に訊けば良いだけの話です。訊いてくれればきっと投稿者も、これは蒙古斑だと説明が出来、電車に居合わせた周囲の人も目も和らいだ事でしょう。
しかしそうしなかったのは、きっと、赤ちゃんに暴力をふるうような親なのだから、もしこの痣は虐待によるものかと指摘したならば自分たちも何をされるか分からない恐怖があったので、遠くからなけなしの正義感をふるったのではないかと思います。

相手に聞こえるようにわざと仲間内で話す事が、虐待者に向けて行える彼女たちの唯一の制裁だったのかも知れません。
『あんな小さい子に虐待して…』『だから若い子は…』と自分たちが嫌みを言う事で「虐待する若い母親」が恥じ入り、反省する事を期待したのかも知れません。
万が一「虐待する若い母親」が自分たちにも牙を向いてきたならば「あなたの事を言っていたのではない」と誤魔化しがきくように遠くからひそひそと話すに留めたのでしょう。
そのやり方はあまりにも中途半端で卑怯です。しかし、私ならばそのひそひそ話をして制裁する事すら出来ないだろうとも容易に想像が出来ます。

本当に虐待だと思ったのならば通報すれば良い。しかし、虐待の通報にはきっと途方もない勇気が必要なのだろうと思います。
自分たちまで虐待問題に巻き込まれては堪らないので、安全地帯からチクチクと攻撃するに留めた年配女性たちの事を、私は非難する事は出来ません。私がその場に居合わせ、若い母親による幼児虐待だと勘違いしたのならば、そのまま視線を合わせずにやり過ごし、逃げた事でしょう。

相手に聞こえるようにひそひそと嫌みを言う事は、何の解決にも繋がりません。本当に虐待している親ならば堂々と痣をさらしている以上、自分の行動を開き直っていて反省する事もしないでしょうし、我が子の異所性蒙古斑を気にしている親ならば、ますます肩身の狭い思いをさせるだけです。逆にそのせいで育児者に鬱を発症させ、本当の虐待に繋がってしまう危険性もあるかも知れません。

いまやSNSで良くない事が発信されると、匿名の方々から情報が寄せられ、犯人が特定される事があります。本当にその情報が正しければ良いのですが、時として人々の正義感が暴走し、無関係の人が攻撃を受ける事もあります。
一人一人の行動の動機は正義感や善意のつもりでも、実はそこにその人の攻撃性や僅かな悪意も含まれているのではないでしょうか。

わざと相手に聞こえるように何人かで集まってひそひそと嫌みを言う行為は、いじめの場面でもよくある事と思います。
自分たちにとってはただの世間話や情報交換のつもりでも、僅かににじんだ悪意は大きな塊となって相手に襲いかかります。
もし異所性蒙古斑を虐待による痣だと勘違いし、「虐待者」に反省を促したいのであれば、ひそひそ話こそが最も無意味なのではないでしょうか。

「赤ちゃんのこの痣はどうしたの?」
「ぶつけちゃったの?」

ひそひそ自分たちだけで話すくらいならば、いっその事、思いきってひと声かければ救われる誰かもいるように思います。