xharukoの日記

妊娠、出産、育児の中で思った事をつれづれ書きます

世界を創る仕事

先日、上の子の就学時健診がありました。そこでは子どもは班ごとに分かれ、上級生に連れられて内科健診や知能検査の会場などに案内され、その間に保護者は講演を聴く機会を得られました。
講師の方のお話は多岐にわたり、その中の一つに、20年後には現在の仕事の半数はAIに変わるかも知れない、というものがありました。

今ある職業は20年後にはAIの発達により半数くらいは無くなると言われている。そんな社会で成人した子どもたちが生きていくには、人間の基礎となる「自己肯定感」が大切である。自己肯定感を育てられるのは家庭である。だからこそ家庭でしっかり子どもの自己肯定感を育てて欲しい、という講演内容でした。
医者などはこれからAIにとって代わる、という話は私も以前ニュースで聞いた事があります。他にも、スーパーマーケットはネット注文が増えて店舗は無くなる、とも。更にはその配達もロボットに代わるのかも知れません。

確かに、私たちが住む社会の様相はこれから劇的に変わり、無くなる職業も多数出てくるかと思います。たぶん、新聞配達もその一つであろうと思います。
テレビやインターネットを通してニュースは確認出来るからと、新聞を定期購読しない世帯が増えてきているという話を聞いた事があります。いずれは配信型になり、早朝のバイクでの新聞配達は無くなるかも知れません。

新聞配達は夜明け前のお仕事なので交通事故が心配ですし、天候によっては転倒などの危険性が増します。なり手も減っているのか、求人募集の広告も頻繁に目にします。きっと、今後20年を待たずとも無くなる職業の一つに新聞配達はあるのだろうと思います。

それでも、その音は誰かを勇気づける大切なお仕事だと思っています。
世界は誰かの仕事で出来ている。缶コーヒーCMのキャッチコピーですが、子育て世代ならば多くの人がその言葉を実感したのではないでしょうか。少なくとも私は新聞配達のバイクの音に救われた一人です。

子どもが授乳期の頃、赤子が泣き出しそうな気配を察知して夜中に起床し、夫が寝息をたてている中で行う授乳。世界は自分と赤ちゃんしかいないのではないかと錯覚するような、あの閉塞感。自分だけが世界から置いていかれているかのように感じる、あの孤独感。
それを華麗に打ち破るのは、新聞配達の方のバイクの音でした。

この壁の向こうにも世界はある。
今日もこんな時間(午前3時)に、私以外の人も活動している。
きっとコンビニだって開いているし、工場の夜勤ラインだって動いている。
私は、独りじゃない。

近付いてくるバイクの音、カタン、と郵便受けに新聞が投函される音。
それは朝の訪れが近い報せであり、人間が活動している音です。投函される音の度に、今の音は○○さん宅への配達だろうかと、近所の方の顔も脳裏によぎります。
玄関を開ければ起きている人と出会える。本当に会う気は別に無いけれど、もしも赤ちゃんに異変が起きたならば助けを求められるかも知れない。
同じ部屋に夫が寝ていますが、こちらは昼の世界の住人。異世界の人間より、同じ世界の人の方が心強い。

何より、もうすぐ、朝が来る。

水平線の向こうから太陽が顔を出した瞬間に、冷えきった身体が温められるあの感覚。
その音はそれを思い出させ、近付いてくるバイクの音に何故だか嬉しくて嬉しくて堪らなくなり、私は泣いてしまった事があります。


新聞配達はこれから無くなる職業の一つかも知れません。子どもたちが寝ている夜中に働けるので、子どもが小学校から帰宅する時には自宅にいてやれ、自分の早寝が必須なので子どもの早寝も促せそうで、PTA活動にも障りがなく、子どもが急病の時でも夫が自宅にいるので安心して働きに出掛けられるそのお仕事は、やろうかなと夫に提案したところ猛反対を受けました。曰く、昼夜逆転は身体を壊すし、交通事故が心配だと。

そんなに大変な仕事だからこそ、近い将来には配信や、ロボットによる配達に代わるのではないかと思います。
しかし、もしも新聞配達がロボットの仕事になったなら、産後うつを発症する人は今よりもっと多くなるのではないかと私は杞憂しています。
私の子どもたちが成長し子育てをする頃には、今よりももっと便利で快適に過ごせる時代になっているかと思います。それでも、新生児には数時間おきに授乳が必要になる事は変わらないと思います。泣いた時に温かな体温のある大人に抱っこされれば赤ちゃんは安心すると思うので、夜間でも授乳は人間がする方が良いのだろうと思います。
では、その時に魂や生命力を吸われているように感じている人間を精神的に支えるのは誰になるのでしょうか。
私が新聞配達の方から与えられたあの大きな安心感を、大人になった時の我が子は誰から頂けるのでしょうか。

新聞配達は夜明け前の寒い時間に活動しなければならず、とても大変なお仕事のひとつです。しかし、それはただ新聞を配達するだけに留まらず、沢山の人の心を支えているように思います。
異世界の住人たちが活動を停止している中で、自分がこうして頑張っているのだから、あと少しだからお前も頑張れと告げるあの音。

世界は、新聞配達の方が毎日新しく構築している。
そんな妄想を抱くくらい、子どもが朝までぐっすり寝てくれるようになるまでの私を支えてくれていたのが新聞配達の方なのです。