xharukoの日記

妊娠、出産、育児の中で思った事をつれづれ書きます

私もあの夜、光を求めた

第一子である娘が新生児の頃、日没から夜明けまで何をやってもぐずぐず泣き、一時間も連続して寝てくれない夜がありました。
当時、私は出産の為に里帰りをしており食事は上げ膳据え膳、洗濯も実母に丸投げ出来、娘の世話以外は何の家事もやらなくて良い環境が整っていました。
実母にアドバイスは貰えるものの初めての育児は手探り状態、自分に自信が無い事も加わり常に緊張状態にあったと思います。
日中はさんざん世話になる為、夜間は実母がしっかり休めるように互いの部屋は家屋の対角に位置する程に分け、夜間の娘の世話に限っては私一人で行う事にしていました。
新生児の授乳は3時間おきと言われていますが、だからといって母親である私もその間の3時間は眠れると思ったら大間違いでした。授乳をしたから、オムツを替えたからといっても赤ん坊はすぐに寝てくれる訳ではなく、赤ん坊が寝たら寝たで世話をする大人はすぐに眠りにつける訳でもなく、疲れているのに眠りにつけないままウトウトしている間に次の授乳の時間がやってくる事もままありました。
母乳育児を推奨する産院からは「赤ちゃんが欲しがれば、欲しがる度に母乳を飲ませて」と言われていた為、3時間も授乳間隔が空いていた事もあまりありませんでした。娘が泣けばすぐにオムツの確認、交換の後に授乳に取りかかっていました。娘が寝付いたら先の授乳開始時間から2時間半後には携帯電話のバイブレーションが作動し私が起きられるように、都度タイマーをセットしてから私も横になっていました。
更に娘が静かに寝ていると、呼吸はしているだろうかと不安になってすぐに確認したくなるなど落ち着いて寝てもいられませんでした。SIDS乳幼児突然死症候群)を知る多くの親は同じように寝ている我が子の呼吸を頻繁に確認している事でしょう。あまりに静かに寝ている時は緊張しながら顔にティッシュペーパーを被せて呼吸の確認を行ったものです。手のひらを鼻先にかざしただけでは呼吸の有無が分からないくらい新生児とは小さいのですから。

そのような訳で娘が新生児の頃は、私は一日2時間の連続睡眠がやっとだったような気がします。もちろん里帰りなしで乗り切っている方はもっと大変だろうと今では分かってはいますが、あの頃は目の前の初めての育児でいっぱいいっぱいでした。

そんな緊張状態の最中にあの夜がやって来ました。夜8時あたりに実家の面々におやすみの挨拶をして娘と自室に入ってから、少し寝たかと思った新生児の娘はすぐに泣き、オムツを確認しても汚れておらず、授乳をして落ち着いてもすぐにまたぐずぐずと泣きました。体重3kg程度とはいえ何時間も抱っこしている腕は疲れ、自分も睡魔に襲われているというのに娘は寝てくれない。
授乳をする、オムツを交換する、抱っこして揺らす。ミルクも与えてみましたが空腹ではないのか殆ど飲みませんでした。ようやく娘が寝たのを確認したら布団に横たわらせ、携帯電話のアラームをセットし、では私も寝ようかと思ったら娘は泣き出す。この繰り返しでした。
新米母には眠らずぐずる我が子を放置して自分が休むという選択肢は思い付きませんでした。
午前3時頃だったでしょうか、こんなに長い間子どもが寝ないなんて普通ではない、3時間寝ないと成長ホルモンは分泌されないと聞く、早く寝せなくては成長に悪影響が出てしまうのではという不安と、何でこんなに手を尽くしているのに寝てくれないのだという怒りの感情と自分が眠りたいのに寝られないイライラが募り、こんな想像をしてしまったのです。


新生児の娘の両足首を片手で握り、思いっきり振りかぶって娘を床に叩きつけたなら、私はゆっくり眠れるのではないだろうかと。


赤ん坊は静かになるでしょう。
死にますから。
冷静になった後で取り返しのつかない絶望に襲われる事は想像に難くありませんが、でもしかし、自分の思い通りにならない、首も座らない新生児の頭を床に叩きつけたなら一瞬でも爽快感がよぎるであろう事も想像できました。

そんな妄想と戦いながらあの夜、私は実母が家族の朝食を作りに起きてくるまでの時間を娘を抱えて揺れながら過ごしたのでした。
朝日が昇り、希望の光がカーテンの隙間から差し込みました。家の中で人が動く気配を感じられた時に私の長い夜が間もなく終わりを迎えるのだと実感しました。
あと少しで私の夜は終わる。ゴールは間もなくだと理解した瞬間に肩の力が抜け、ほぼ一晩中抱き続けた娘が軽くなったように感じました。この時の母が朝食を作る音は天上の音楽にも匹敵するかと思う程でした。家族の朝食作りを終え、他の家族に声をかけてから私たちの様子を見に来てくれる母の足音が近づいてくるのを感じた時には心底助かったと安堵したものです。実母に娘を託すと私は泥のように3時間ほど眠り正常を取り戻し、娘も祖母の腕の中で実にぐっすりと寝たそうです。
この長い夜は後にも先にもこれ一度しかありませんでしたが、私の人生でこれ以上に絶望の淵を覗いた事は未だ無い程の出来事として刻まれています。


以下のニュースは10才未満の長男、という事なので私の時とは異なるストレスを母親は感じていたのかも知れません。

北海道札幌市東区 息子を床にたたきつけ母親逮捕(北海道)
https://www.stv.jp/news/stvnews/u3f86t000004wqxg.html


しかし子どもが何歳だろうと関係ありません。我が子を床に叩きつける程にこの母親は追い詰められた精神状態だったのでしょう。一番可哀想なのは被害に遭った子どもですが、そうせざるを得ない状態にまで陥っていた母親に私は深く同情します。
彼女がどのようなストレスを抱えていたのかははかり知れませんが、ただひとつ分かるのは、この母親には救いの光が間に合わなかったという事実です。

あのままゴールの光が見えていなければ、私もそちら側の人間になっていたでしょう。上げ膳据え膳の里帰り出産でも育児にストレスを抱え追い詰められる人間がいるのです。
札幌市に救いが必要な人がいました。
ならばきっと、南青山にも。