xharukoの日記

妊娠、出産、育児の中で思った事をつれづれ書きます

母性神話を打ち砕こう

マタニティブルーや産後うつが少しずつ認知されてきましたが、それでも私たちの社会には「母性神話」が深く根差しているように思います。母性神話とは、女性には自分よりも弱い存在を守りたいという本能が備わっている、子どもを守る為ならば母親は己の命をも省みない等、母親(女性)とはこうあるべきだ、という期待通りの行いを女性が意識的に、あるいは刷り込みにより無意識に「してしまう」事だと私は思っています。
男性に好ましい女性の職業を問えばきっと看護師や保育士が上位にランクインするでしょう。少し前なら、女性が「子どもが苦手」だと言えば男性から人非人扱いをされていたのではないかとすら思います。
女性なら誰でも赤ちゃんや小さい子どもの事を可愛いと思う。故に母親は育児がとても楽しく、赤ちゃんのお世話をする事が大好きだと思っている。それらは総じて「母性」とひとくくりに言われ、女性には生まれながらに備わっている本能だと考えられていたように思います。
私自身はマタニティ期間はとても幸福でしたし、我が子のお世話も嫌ではありませんでした。子どもが新生児の頃の私の寝不足と母乳の出なさ等は辛かったですが、育児中は総じて幸福に気持ちのメーターは傾いていると感じています。
しかし幼児虐待を行う母親もいるように、母親の誰もが「母性」に溢れている訳ではありません。以下の記事を読んだ時に感じたのは、該当者はさぞかし自分を責め、苦しんだのだろうなという憐憫でした。


あなただけじゃない!授乳が不快という感覚…D-MERとは?
https://st.benesse.ne.jp/ikuji/content/?id=37114

D-MER(ディーマー・不快性射乳反射)を知っていますか? 赤ちゃんが母乳を飲み始めると、突然、不快でネガティブな感情に襲われることです。母乳育児の幸福なイメージからは、ちょっと想像しにくいこの症状。珍しいことではないようです。

(中略)

赤ちゃんに母乳を飲ませているときに「気分が悪くなる」「イライラする」といった不快に襲われたことはありませんか? それはD-MERかもしれません。

(中略)

D-MERは生理的な現象。重大な病気の前兆ではありませんし、悪化することもありません。

(中略)

D-MERが最初に報告されたのは2007年ですが、昔から授乳で不快を感じた人はいたようです。まずはD-MERについて知ることが、第一歩になります

育児未経験者や育児の記憶が遠くなった人、そして男性の多くが、授乳中の姿を見れば母子共に幸福そうだと感じるでしょう。実際には母乳がうまく出ずに泣いている母親や、一人目育児の時の私のように乳首が切れてしまって吸われる度に傷口を暴かれる痛みを堪えている母親もいます。それだけでなく、授乳をしていると不快な感情に襲われるという母親もいるのだそうです。

D-MER(ディーマー・不快性射乳反射)の人は、産前に抱いていた授乳のイメージとかけ離れた自分の姿にさぞかし落胆した事でしょう。こうして正式に名称が付く以前には、自分には母性が欠けている、不出来な母親なのだと自身を責めて苦しんでいたのではないでしょうか。授乳の度に不快感を感じるならば、最初の数分で治まるとしても、産後数ヵ月は一日の殆どが不快だった事になります。授乳の時間が来ると思うと憂鬱になり、そこに判断力を奪う寝不足等の要因が重なれば、赤ちゃんに手をあげなかった事は奇跡としか言いようがありません。理性で何とか衝動を抑えていたのだとしたら、それは何と辛く、孤独で悲痛な闘いの時間だった事でしょう。

このようにD-MERを自分には無関係な事のように書いていますが、もしかしたら私も該当していたのかも知れません。思えば私も授乳中にまぶたや目の奥に不愉快な感覚を味わう時があったのです。しかもそれは母乳が存分に出て、乳首も切れず、添い乳もマスターし、気分に十分な余裕のあった二人目の子の授乳の時にしばしば起こりました。
それは眠りたいのに眠れない時の感覚と似ていたので、単に自分の寝不足が原因だと思っていました。目の奥の不快感の多くは夜間授乳の際に感じていた為でもあります。しかし、記事中に「授乳を続けていても、数分でおさまることが多い」とあったので、何となく合点がいきました。私の授乳中のまぶたや目の奥の不快感は、何度も強く目を閉じる動きをして紛らわせているうちに治まっていたからです。睡眠不足が原因で起きていた症状であるならば、寝ない事には解消しない筈だったのではと今になって思うのです。
私は花粉症ではないので違うかも知れませんが、花粉症の薬のCMで「目の奥がゴロゴロする」という症状を挙げているのを聞いた事があるので、花粉症に悩まされている時の感覚だと言えばご理解頂ける方もいらっしゃるかと思います。
私は自身の寝不足が原因なのだろうとしか考えていなかった為に、あと数ヵ月辛抱すれば子どもは4~5時間は連続で寝てくれるようになる、その時まで頑張ろうと気持ちに余裕があったのでやり過ごせましたが、授乳自体が不快感の原因だと判明した方は相当なショックだっただろうなと思いました。

SNSが発達したおかげで自分の様々な声を匿名で書き込めるようになり、ネガティブな発言もどんどん公に発信が出来るようになりました。読み手側も自分の感覚と同じ人がいるのだと安心し、仲間を見つけやすくなりました。
マタニティブルーがあり、産後うつがあり、そしてD-MER(ディーマー・不快性射乳反射)もある。苦痛を苦痛だと言えるようになっただけでも、だいぶ女性に優しい世界になったと思います。

私は記事を読むまでD-MERを知りませんでした。授乳の度に不快感を感じ、自分を卑下する母親が減るように、D-MERの事ももっと周知されれば良いと思います。
育児は女性の本能ではなく、社会的に期待されている役割を果たそうと、努力して実行しているだけの業務です。母親だって本当はしっかり眠りたいし、赤ちゃんのドロドロうんちになんて触りたくもないし、鼻水を口で吸い取りたくて子どもの鼻に吸い付いている訳ではありません(今は鼻水吸引器がありますが)。我が子が可愛いからなどという理由とは別次元の感覚で、誰もやってくれる人がいないから自分が実行するしか方法が無くての責任感の発露でしかない場合もあるのです。
「母性」とは男性が長らく女性に押し付けていた「自分が母親に求める理想の姿」でしかなかった事を周知しても良い頃合いなのではないでしょうか。

コックやパティシエの世界が男性社会だと考えると、家庭においては料理を女性の仕事だと決めつけるのも二律背反な気がします。
「女性だから出来るだろう」との決めつけをやめ、母性神話という幻想を打ち砕く時代が来たように思います。