xharukoの日記

妊娠、出産、育児の中で思った事をつれづれ書きます

陣痛促進剤の話

私には2回の出産経験があります。どちらも経膣出産ですが、どちらも予定日超過のため陣痛促進剤で人工的に陣痛を誘発して産みました。したがって自然な陣痛の訪れというものを一度も経験していません。
予定日を過ぎたという事は胎盤の機能が低下し始めるという事。胎児が息苦しい思いをしているかも知れない、ここまできてお腹の中で死んでしまうかも知れないと思ったら、不自然な事でも何でも良いから早く子宮から出してあげたいと考え、自分から誘発分娩をお願いしました。
結果的に何事もなく子どもたちは成長していますが、もしかしたら事故の可能性もあったのだろうかと少しだけ胆が冷えました。


お産事故で赤ちゃんに脳性まひ、3割で陣痛促進剤を使用
https://www.asahi.com/sp/articles/ASM3Y61TTM3YULBJ00X.html?iref=sp_ss_date

 2013年までの5年間にお産の事故で脳性まひになった赤ちゃんのうち、約3割に陣痛促進剤(子宮収縮薬)が使われ、最もよく使われる薬剤だと、半数以上のケースで、学会指針が強く勧める適切な使用量が守られていなかった。日本医療機能評価機構が29日、発表した。

出産時の事故で脳性まひになった赤ちゃんの約3割で陣痛促進剤が使われていたというのです。

この記事を読んでから出産育児関連の書類を入れていた箱をひっくり返してみたのですが、促進剤使用の同意書というものは見当たりませんでした。記名して判を押したような気もするのですが、私が控えを紛失したか控えを貰っていないか、出産時は沢山の書類を提出するので、そもそも同意書など提出していなかったのかは定かではありません。産科医療補償制度の登録証は病院のスタッフさんが母子手帳の裏表紙にしっかりと留めて下さったので、いつでも確認が出来るのですが。

新生児死亡率は世界平均1000人中46人に対し日本は0.9人、妊婦死亡率は世界平均10万人中216人に対し日本は5人だそうで、日本は世界で一番安全に子どもを産める国だと言われているそうです。
医療の進歩により出産時の事故はだいぶ減ったように思いますが、それでもまだまだ悲しい事故はゼロではありません。
自然な陣痛による出産でも事故があるのですから、促進剤で無理矢理陣痛を起こした時に事故が起きても何ら不思議はありません。

そうは言うものの、私の時には事故の可能性などまったく頭によぎりませんでした。妊娠22週で生まれた赤ちゃんだってお腹の外で生きられるのだから、妊娠41週の子なら絶対に大丈夫。むしろもうお腹の外にいた方が赤ちゃんは安全だ。上の子の時には妊娠性糖尿病の事もあったので、より強くそう思いました。使用期限(出産予定日)の過ぎた胎盤と糖尿病の母の胎内よりも、外界の方が良い環境だと思ったのです。
主治医からは「42週を過ぎるまでは正常の範囲なのだから、あと数日は様子を見ても良いんだよ」と言われていたにも関わらず自分から誘発分娩をお願いしたのは、「お腹の中で赤ちゃんを死なせたくない」という気持ちからでした。
もちろん財布の問題もありました。予定日を過ぎてからの健診は二日に一度になるのですが、その頃には自治体から発行された14回分の受診票を使い切ってしまっていたので、それまで特別な検査以外は無料だった健診が実費になるのも痛手だったからです(毎回5000円は痛い)。嬉しさのあまり妊娠6週から病院に行っていた事が裏目に出ました。
また、いつ陣痛が来るのか分からない状態というのは落ち着きません。家族が誰もいない時や、真夜中に破水したならばと思うと怖くてたまらなかったので、「陣痛が来るのはこの日」と決められた方が安心だったからです。

陣痛促進剤による事故のニュースは他にも読みました。

「心臓止まっちゃっているけどビックリしないでね」我が子抱っこできぬまま母親死亡…遺族が病院提訴
https://sp.fnn.jp/posts/00044542HDK/201904032015_livenewsit_HDK

2017年8月、神奈川県内の産婦人科で陣痛促進剤を使用し出産した美沙さんは、その後、出血多量の末、亡くなった。

(中略)

一般的に陣痛促進剤の使用量を誤ると、子宮が破裂し出血する恐れがあるという。

ホルモンというものは25メートルプールに一滴投与しただけの濃度でも影響が出ると何かで見た事があります。本来なら徐々に分泌されて陣痛に繋がる所を、人工的に作られたホルモンが外部から投入されて陣痛が始まるので、いきなり強い痛みの所からスタートするのが誘発分娩だと、出産を終えてから私は知りました。
小さい地震が何度か繰り返し起きてから徐々に強い揺れになっていくのが普通の陣痛なら、誘発分娩はいきなり強烈な直下型地震が来るようなものなのかも知れません。そうなれば子宮に亀裂が入る事も不思議ではありません。

私が誘発分娩に臨んだ産院はしっかりした管理体制だったと思います。助産師さんが頻繁に私の様子を確認しに陣痛室に入室してきましたし、点滴の流れが滞るとけたたましいアラームが鳴りすぐに担当者が入室して調整して下さいました。
助産師さんが入室する度に手元のスマホで陣痛の波の時間を測定していた私が「いま5分間隔です」などと知らせた時に「もうちょっとですねー」と、既に5分間隔に突入している事は知っていますよと言わんばかりの対応だったのは、私に繋いでいる監視装置の結果を別室でも見られていたからだろうと思います。陣痛室から分娩室に移動する時にナースステーションの前を通った時に目撃した沢山のモニターは、陣痛室にいる妊婦さんに繋いだ機械と連動し、ここでステーションにいながらそれぞれの妊婦の子宮の張りの様子を監視していたのだろうなと思いました。

産後は分娩台をベッドにして生まれたての我が子と二人きりになるケアを受けましたが、その時にも私の様子を確認しにスタッフさんが頻繁に入室して来ました。
何か寒い感じはないか、お股から出血の感覚はないかと訊かれ、
「えー、そんなのガーゼ詰められてるから分かりませんよー」
と私は呑気に答えました。
会陰切開を受け、縫合の処置を受けた時に止血の為にとガーゼを膣に詰められていたのです。
すると助産師さんはこう答えました。
「いやいや、出血する人はそのガーゼを越えてドバドバ溢れるんですよ」
うへえ、そうなんだと私は他人事のように苦笑いしました。
朝から促進剤を投与し、朝食は陣痛の合間にかき込みましたが、昼を過ぎてから出産に至ったので分娩室のベッドの上で遅い昼食を私は摂りました。起き上がると身体のあちこちが痛みまともに座っていられませんでしたが、これから育児という戦いが始まるのだから食べなければという意地で食事を摂っていると、主治医(男性)が入室して来ました。
「ご飯おいしい?」
「はい、めっちゃウマイっす」
なんだか男子高校生のような返事をした記憶があります。私の頭の中は途方もない偉業を成し遂げた達成感でいっぱいでした。すると医師は
「その様子なら大丈夫だね」
とニコニコしながら退室して行きました。テメエ主治医のくせに出産の時は会陰切開の時にしか来なかったじゃねーか、今もすぐに帰るんかーいと思いながら私は16時頃に昼食を完食し、入院部屋に移動し18時に夕食を食べました。
それらの意味を知ったのは出産してから数年後、NHK「透明なゆりかご」を観た時だったか、TBS「コウノドリ」を観た時だったか。産後にとてつもない出血をし、母体が死亡する場面をドラマで観た時に私の主治医の顔がよぎりました。あれは出産おめでとうの笑顔ではなく、私の無事を喜ぶ笑顔だったのでしょう。

妊娠出産は病気ではありませんが、死亡する可能性はあります。事故の可能性もゼロではなく、挙げた記事のように赤ちゃんには脳性まひ、母体には死亡という結果が残る事もあります。
しかしそれは、陣痛促進剤を使用したからだとは限らないと思います。
なかなか生まれない場合に陣痛促進剤が投与されるのですから、出産時の事故は促進剤が原因なのか胎児や母体に何らかの問題があったせいなのかは分からないのではないかと思うからです。

私は上の子の出産の時に助産師さんから人工破膜されました。人工破膜とは赤ちゃんを包んでいる膜を人の手で破る事です。膜を破ると破水し、溜まっていた羊水が排出されます。その結果子宮の収縮が強くなって分娩が進みやすくなるのですが、私は何度いきんでも自分の腹圧では破れなかったのです。
また途中で赤ちゃんの旋回異常が起き、赤ちゃんの頭が見えていたので助産師さんが膣に腕を突っこみ赤ちゃんの頭を掴んだかして正しい状態に処置しました。赤ちゃんは産道を通る時に回転しながら降りてくるものなのですが、娘は自分ではうまく回れなかったのです。
これらの異常は陣痛促進剤のせいではなく、私や赤ちゃんに元々何らかの異常があったからではないかと思っています。

陣痛促進剤は正しく使えば微弱陣痛に長く苦しむ人の背中を押してくれ、予定が詰まっている人には希望した日を子どもの誕生日にしてくれ、早く子宮から出してあげたい人にはその願いを叶えてくれる薬です。
そもそも出産時の事故で脳性まひになった赤ちゃんの約3割で陣痛促進剤が使われていたという事は、残りの7割は自然分娩で発生したという事になります。つまり陣痛促進剤を使用しなかった方が赤ちゃんが脳性まひになる可能性が高いという結果になりはしないでしょうか。

出産は命がけで行う仕事だという事を忘れてはなりません。
「心臓止まっちゃっているけどビックリしないでね」が医師の言葉だとしたら論外ですが、心臓が止まってもおかしくない程に出産は大変な事なのだという認識を、特に男性に持って貰いたいと思いました。