xharukoの日記

妊娠、出産、育児の中で思った事をつれづれ書きます

これもまた愛情の搾取か

「愛情の搾取」という言葉を私はTBSのドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」で知りました。
偽装結婚して家事を行い報酬を得ていた主人公の女性に、雇用主である男性(偽装結婚の相手)がプロポーズした。二人が本当に結婚すれば、家事代行分として主人公に支払っていたお金を二人の貯金に回せるから、というような説明を男性がした時に主人公が激昂します。
主人公は、雇用主が自分と結婚したい理由は「主人公に賃金を払わずに家事をさせる事が出来るから」という事だと受け取ったのです。「好き」という気持ちにつけこんで無報酬で何かをやって貰おうというのは、「“好き”の搾取」だと。

子育ては楽しい半面、面倒な事も沢山あります。空腹だ、オムツが気持ち悪い、抱っこしろと夜中だろうと泣き出す赤ん坊。あれが欲しい、あこそに行きたい、これがしたいと駄々をこねる幼児。朝になって洗濯物を出してきて「今日、学校で使うから綺麗にして」と要求したり、早朝から作った弁当を「コンビニで買うからいらない」と一蹴したりする子ども。自分の子どもの頃を棚にあげて書いていますが、その姿は「愛しているならこのくらいしてよ」と言わんばかりです。
思う通りに行動してくれない子どもにイライラしながらも親が対応するのは、やはりそこに愛情があるからなのだろうと思います。愛情があるからこそ、見返りが少なくても何かをしてあげたいという気持ちがそこに生まれてくるのです。
専業主婦の私はどんなに家事や子育てに励んでも無報酬です。専業主婦の「労働」に賃金は得られませんが、夫や子ども達からの信頼や愛情のお返しが報酬となっていらるからこそ頑張れます。
子どもの為を思えばこそ、賃金が発生しなくても多少は無茶な要求も叶えてやりたくなる。親となった殆どの方が同じような気持ちになるのではないでしょうか。
そんな子どもの昼間を担当してくれている学校とは、二人三脚で子育てをしているパートナーのような感覚の方も多いかと思います。だからこそ「18時以降に子どもに何かあった場合、教師も対応して欲しい」となるのでしょう。

2019年7月21日に参院選の投開票が行われ、日本テレビ系「news zero」の特番「zero選挙2019新時代の大問題」が放送されました。そこにゲスト出演したタレントの若槻千夏さんの発言が大炎上し、22日に若槻さんが謝罪する事態に発展したそうです。
留守番電話等を活用し、勤務時間外の対応をなるべく止め、18時以降は学校にかかって来た電話に出ないなど、教師の負担を減らす対応策をしていると話した現役の小学校教師の発言に対し、若槻さんは
「(子どもに)何かあったらどうするのか。18時以降対応しないで、もし子どもが帰って来なかったら? ビジネスにしないで!」
と話したのだそうです。

番組に出演した現役教師は「それは学校の役目ではなく、たとえば万引きがあったら警察の役目、他に何かあっても親の役目と思う」と理路整然と説明したそうですが、若槻さんは
「さみしい~! もし子どもが帰ってこなければ心配になって探すが、見つからなかったら学校に電話する。(時間外なら)それも対応してくれないってことですね」
更に
「『ごくせん』観て育ったでしょ? みんな、『金八先生』観たでしょ?」
と有名ドラマのタイトルを挙げて感情的になったとの事。

このようなやりとりがあった事を私は下記の記事で知りました。

「18時以降、学校、教師は対応しません」についてどう考えるか
https://news.yahoo.co.jp/byline/senoomasatoshi/20190722-00135214/


上記の記事は学校業務改善アドバイザーの方が記したものなので、教師を労働者として論じたものになっています。
文中に以下のような例がありました。

2)下校途中のコンビニで、中学生(高校生でも小学生でもよい、以下同じ)が近隣校の生徒とケンカして怪我をさせた。制服から学校名が分かり、コンビニとしては、学校に電話した。勤務時間内であるが、教師は駆けつけるべきか?

記事の答えは「学校、教師は対応する責任はない」です。
言われてみればこれは「暴力事件」なのですから、暴力事件の対応をするのは警察の仕事です。未成年同士の事ですから警察から保護者へ連絡が行き、あとは警察と保護者のやり取りが主流になるのでしょう。
しかし私は何となく、こういう場面には教師も介入するようなイメージでいました。

学校の先生が多忙なのは、授業やその準備以外にも煩雑な仕事があるからです。私は会社員時代に新入社員の研修も担当していましたが、例年、入社初日~数日の研修期間中のほんの数コマ分の講義だけを担当しているのに、それでも内容の確認などで準備の為の時間を要しました。先生方はその準備が一年間ずっとあり、それだけでも大変なのに、更に学校行事や部活動まで担当していては、普通の会社員のように定時の17時になど帰宅する事はできません。しかも生徒の生活指導、生徒間の人間関係トラブルの対応もしなければならないでしょうし、生徒の親とのやり取りも発生するでしょう。
仕事をしている生徒の親と面談しようと思うならば、面談時間は18時以降になる事も多いのではないでしょうか。その生徒の親との面談も、理不尽な要求を突きつけられては対応はよりいっそう困難となるかと思います。モンスターペアレントという言葉が定着したのも、無茶を通そうとする保護者がとても多い事が明るみになったからで、教師の皆さんはこれまでにもずっと、日々その対応に頭を悩ませていたのだという話はテレビの特集などで私も知りました。

子どもたちに授業を行う事が教師の主たる仕事です。生活指導も教育の範囲に入るとは言え、どこまで家庭に介入するかは教師によって異なるかと思います。
若槻千夏さんは体を張って生徒を導く熱血指導が売りの教師ドラマを挙げました。「ごくせん」「金八先生」を知らない方は少ないだろうという程の有名ドラマです。しかし教師も労働者であるという視点からこのドラマを観ると、ブラック企業も顔負けの労働時間になるのではないでしょうか。
時間を問わず、生徒の為に奔走するドラマの教師。この時間外対応に残業手当は支払われているのでしょうか。そもそも先生方の給与明細に「残業手当」という項目はあるのでしょうか。あったとしてもそれは、実労働時間に見合うものとなっているのでしょうか。
教師をしている人の家庭は荒れる、と聞いた事があります。その家庭の子どもにとって、お父さんお母さんは自分の父母であるよりも「誰かの先生」である事の方が多く、十分に親に甘えられない環境で子どもは育つからだそうです。例えば自分の親に届く年賀状の、よその子どもからの親愛の念が溢れる内容に、その家の子どもは「自分のお父さん/お母さんなのに」という複雑な気持ちを抱いていたのではないかと今なら思います。
年賀状と言えば、私も子ども時代に学校の先生から年賀状が届きました。いま、子どもの幼稚園からは先生の個人名で暑中見舞いも届きます。これらは経費なのでしょうか。私は恐らくは自費ではないかと思っています。クラスの全生徒に送っているのだとしたら相当な出費です。
教師は聖職とも言われます。そんな教師の方々は、「先生」というだけでかなり特殊な業務を請け負い、相当の自己犠牲を強いられているように思います。
そして、これもまた「愛情の搾取」なのではないでしょうか。

記事の例では、問題が発生したのは下校途中です。ならば暴力事件を起こした生徒は既に学校の敷地外にあり、監督責任が曖昧になります。「帰宅するまでが遠足」だとはよく聞きますが、登下校中というのは管轄は学校なのか家庭なのか、非常にグレーゾーンのような気がします。しかしコンビニ側としては制服しかその子どもの連絡先が分かるものを確認できないのですから、保護者の連絡先を子どもが話してくれなければ、コンビニ側としては学校に連絡するしかありません。
いくら暴力事件と言えども「子どものした事」をいきなり警察に通報するのは殆どの人が気が引けるものです。警察に通報しては大事(おおごと)になってしまい、子どもの経歴に傷がつくかもしれません。しかし学校ならば保護者の連絡先が分かるので、子どもの為にも穏便な解決を願い、警察を呼ばないという選択をとろうとするコンビニ側の気持ちはよく分かります。
連絡を受けた学校は誰かを現場に急行させ、身元が判明すれば今度は担任教師も連絡を受けて駆けつける。きっと、行く義務はないのでしょうが、社会通念上、教師はこうした現場に駆けつける事を期待されるので、行くしかないのでしょう。

子からの要求が多少無茶なものでも親は可能な限り応えようとするのは、そこに「やってあげたい」という愛情があるからです。しかし、それでも多くの方にとって、その人数は1~5人程度でしょう。しかし教師が目を向ける生徒は1クラスに最大40人もいます。その40人全員に、親のように深く関わる事など無理な話なのに、何故だか私たちは教師にも子どもに深く関わって欲しいと期待してしまうのです。

先生にも家庭はあるのに、早朝からの生徒の登校の見守りを期待する。夕方になっても子どもが帰宅しなければ、一緒になって探して欲しいと期待してしまう。
「先生ならば、このくらいやって当然」
「生徒が可愛くはないのか」
と言われれば、動かないわけにいきません。
その姿は、「母親ならばやって当然」と自己犠牲を強いられる構図とよく似ているように思います。

保護者が教師にあれこれ要求するのは、「うちの子を、先生にも私たちと同じように大切に扱って欲しい」という気持ちがあるからです。
若槻千夏さんは「ビジネスにしないで」と発言したらしいですが、しかし一人の教師が40人の生徒全員の親になるのは到底無理な話です。ビジネスにとまではいかなくても、18時以降は留守電対応にする程度の線引きはあってしかるべきだと思います。
親は生んだ責任もあり、子どもへの愛情があるので「搾取」を受け入れてしまいます。しかし子育てのパートナーだからといって、教師にまで「愛情の搾取」をするのは違うように思います。

子どもが就学した後の子育ての責任を、親は学校に丸投げしてはいけないと思います。「ビジネスにしないで」とは確かに思いますが、しかし学校は家庭とは異なり、ビジネスのように割り切らないといけない部分もあると思います。
その為にはまずは、生徒同士で発生する暴力事件、恐喝事件などを「いじめ」と称して学校で抱え込まず、どんどん警察に介入して貰えば良いのではないかと思います。
TBS「義母と娘のブルース」では、綾瀬はるかさん演じる主人公の亜希子は、学校行事に業者(自分の元部下)を導入し、一人で運動会を運営しようとしました。育児もワンオペでは行き詰まる事があります。ならば保護者か学校かの二者択一ではなく、外部の力を導入する事を学校は当然とすれば良いのではないかと思いました。